The Hindu Conspiracy Cases: Activities of the Indian Independence Movement in the U.S., 1908-1933
第一次大戦中、インドの民族主義者は宗主国イギリスがヨーロッパ戦線に傾注し、植民地インドを顧みる余裕がない機会を捉えて、独立の実現に向けて、イギリスのインド統治への揺さぶりをかけました。その活動はインド国内に止まらず、当時の国際関係をも巻き込み、当事者のインドやイギリスを超えた広がりを持つ国際的事件の様相を帯びるにいたりました。
本コレクションが対象とする事件の舞台はアメリカです。アメリカ合衆国には多くのインド人が移住し、インド人コミュニティが形成されていました。在米インド人が創設した政治団体の中で、有力な団体がサンフランシスコに本部を置くガダル党(Ghadar Party)で、機関紙『ヒンドゥスタン・ガダル(Hindustan Ghadar)』を発行し、本国の独立運動を支援しました。
インド人活動家は宗主国イギリスの敵国であるドイツに独立運動のための資金提供や武器運搬の支援を要請し、イギリスの植民地体制を揺るがすことは自国に有利と判断したドイツもこれに応じました。独立運動のための資金提供や武器運搬はアメリカを経由して行われることが多かったため、イギリス政府はアメリカ政府に向けて、これらの活動を阻止するよう要請します。アメリカは中立国であるため、当初はイギリスの要請を拒絶しましたが、ドイツとインドの共謀をアメリカ国内で許容しているのは中立違反であると、イギリスから抗議を受けるにおよび、アメリカの対応に変化が起こります。また、当時のアメリカでは排外主義者が政治的急進主義者や移民を排斥しようと試みていましたが、第一次大戦中にアメリカ国内で発生した爆発事件がドイツ人の諜報活動によるものであるとの疑いが持たれ、ドイツ人の陰謀に対する恐怖心が全米に蔓延し、排外主義のターゲットがドイツ人にも及びました。さらに、インド人民族主義者はドイツの支援を受けていたため、インド人とドイツ人が共謀しているとの疑いが持たれるようになりました。アメリカが協商国側に立って参戦する1917年には諜報活動取締法(Espionage Act)が成立、当初よりイギリスから要請を受けていたインド国内向けの武器輸出を告発する法的根拠が得られます。こうして、インド人民族主義者やサンフランシスコ駐在ドイツ人外交官ら、29人が諜報活動取締法違反容疑で起訴されました。
本コレクションは、司法省(Department of Justice)、移民帰化局(Immigration and Naturalization Service)、連邦検事局(U.S. Attorneys)、連邦保安局(U.S. Marshals)の裁判関係記録です。一連の裁判の過程を記録するだけでなく、事件の背景となるインド独立運動、インド人移民の状況など、第一次大戦期を挟む20世紀前半のアメリカにおいてインド人が置かれた状況を明るみに出す資料集です。被告人側は、自己の正当性を主張するに際して、イギリスから独立したアメリカの建国の理念に訴えていたことが裁判の記録から明らかにされるなど、インド独立運動の知られざる一端を浮き彫りにする貴重な文書集です。
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- 東南アジア・南アジア研究