Nineteenth Century Collections Online: European Literature, The Corvey Collection, 1790–1840
19世紀史料集成(NCCO)第4部:コルヴァイ城所蔵ヨーロッパ文学コレクションでは、ドイツのヘッセ・ローテンベルク伯、ヴィクトール・アマデウスにより19世紀前半に蒐集され、コルヴァイ城に保存されてきたロマン主義時代の書籍コレクションより、英・仏・独語による文芸作品17,800冊以上を収録します。
長く学者の眼から閉ざされてきたこの驚くべき蔵書が陽の目を見たことは、20世紀後半の文学研究における最も重要な出来事の一つです。18世紀後半から19世紀初頭に至る約1,250人の作家による英語作品約3,250点を収録するもので、現在では英国ロマン派作品の最も重要なコレクションとみなされるようになりました。
その学術的価値は、ロマン派時代に作家活動をしたイギリス人作家、とりわけ女性作家の稀少な刊行物や、文学史上未知の存在であった作品が相当な数にのぼることに示されています。英語作品に加えて、フランス語作品3,600点以上、ドイツ語作品2,600点以上も収録されていることも見逃すことはできません。
イギリスロマン派と初期ヴィクトリア朝文学、並びにヨーロッパ大陸のロマン派文学を代表する作品を収蔵するコレクションとして、本コレクションは比類なきものです。収録作品の多くは、大英図書餡やフランス国立図書館の目録にすら記録されていません。
とりわけ、散文作品には強く、マイナーヴァ・プレス(Minerva Press)のような人気を博し影響力の大きかった出版社により刊行されたゴシック小説やロマンスが収められています。さらに、コレクションが蒐集されていた当時、独自の基準で蒐集しなかったことが却って功を奏し、ロマン派文学の時代に大半の作品の売買がなされていた三大都市ロンドン、パリ、ライプチヒにおける当時の文学市場の実態をスナップショットのように現代に伝えてます。
有名作家の作品も収録されていますが、むしろ作品数が多いのは歴史的に忘れられ周縁化されてきた作家です。これら無名作家の生涯と作品は近年、文学界で再評価の機運が高まり、イギリスと大陸のロマン派文学研究の行方を左右するまでに至っています。
本コレクションにより一次テクストに基づく研究が可能になれば、今後のロマン派文学の研究は新境地を開拓し、ロマン派文学の再評価に向けて重大な影響を及ぼすことが期待されます。収蔵作品の多くは極めて稀少なものであるため、これらの作品を研究しようとする研究者は、様々な図書館や文書館に足を運ばなければならないという問題に直面してきました。コルヴァイ・コレクションがNCCOに収録されたことにより、この種の研究旅行の必要性は少なくなり、ロマン派文学に対する効率的なテクストの研究が促進することが期待されます。
イギリスロマン派文学は過去2世紀にわたり、主に男性作家による文学現象として理解され、5人の詩人(ワーズワース、コールリッジ、バイロン、シェリー、キーツ)と1人の小説家ウォルター・スコットにより歴史的に代表されてきました。長く文学の正典と見なされてきた女性作家ジェイン・オースティンは、ロマン派時代に著作活動をしたにもかかわらず、伝統的に18世紀の作家に分類されてきました。
しかし、20世紀最後の4半世紀にイギリスロマン派文学研究では、女性作家や労働者階級出身の作家の作品に光を当てる試みが活況を呈しました。女性作家の再評価により、イギリスロマン派の文学地図は書き換えられ、周縁化されてきた作品を学者や学生が利用できるになるにしたがい、ロマン派の再評価は真摯に取り組まれる文学プロジェクトになりました。さらに、女性作家と男性作家、職業作家と自身や家族の生計を支えるために書いた作家による大量の大衆文学も研究対象になりました。
コルヴァイ・コレクションは、ロマン派時代と初期ヴィクトリア朝時代のイギリスとヨーロッパ大陸における文芸出版の実情と広がりを記録するドキュメントです。1820年代と1830年代の出版物を多く収録しているという点では、文学史上これまで移行期として十分に研究されてこなかった時代に光が当てられることが期待されます。