Federal Surveillance of African Americans, 1920-1984
20世紀を通して、司法省と連邦捜査局(FBI)は、外国人、社会主義者、共産主義者、平和運動家、労働組合活動家、公民権運動家等、政治的に疑わしいと見なした団体や人物を監視し、捜査対象に置きました。本コレクションは、黒人の急進的な団体や指導者に関するFBIの監視、諜報活動の記録を収集したもので、期間は1920年代から1980年代をカバーします。
《収録ファイル》
◆A・フィリップ・ランドルフ関係ファイル
寝台車ポーター組合の指導者で、全国黒人会議の会長を務め、1941年には国防産業と軍隊における黒人の正当な地位を求めるワシントン行進運動を提唱したA・フィリップ・ランドルフ(A. Philip Randolph)は、1955年、アメリカ労働総同盟(AFL)と産業別組合会議(CIO)の二大労働組合組織が合同し、AFL-CIOが成立した際、副会長に選出された。本ファイルは1940年代から1960年代初頭までの覚書や書簡を収録する。
◆アダム・クレイトン・パウエル関係ファイル
ハーレムのバプテスト教会の牧師だったパウエルは、労働問題や住宅問題に関わる中で知名度を上げ、1941年に黒人として初めてニューヨーク市評議会委員に選出され、1945年には連邦議会の下院議員に選出された。1967年に下院基金の不正使用の疑いで議員資格を剥奪されたが、最高裁で議員資格剥奪は違憲との判決が下された。
◆アトランタ連続児童殺人事件関係ファイル
1979年から1980年にかけてジョージア州アトランタで黒人児童の殺人や失踪が相次いだ。当初アトランタ市警は各々の事件を個別に捜査したが、相次ぐ事件発生により一連の事件を関連あるものと認め、捜査本部を設置した。アトランタ市長がホワイトハウスに支援を求めたためFBIが捜査に乗り込んだ。1981年、ウェイン・バートラム・ウィリアムズという黒人が逮捕され、裁判で終身刑が言い渡された。
◆ノースカロライナ州ブラックパンサー党関係ファイル
FBIによる監視報告、覚書、ブラックパンサー党の刊行物、党軍事報道官によるスピーチのトランスクリプト、党本部の電話盗聴の記録、党の内部文書や書簡を収録する。
◆公共正義委員会関係ファイル
米国自由人権協会の関連団体、公共正義委員会(Committee for Public Justice, CPJ)は、アメリカが政治的抑圧の時代に入りつつあることに警鐘を鳴らすため1970年に設立された。委員会がFBIを非難すると、FBIは保守系メディアに協力を求め、委員会の影響力を殺ぐことに努めた。
◆イライジャ・ムハンマド関係ファイル
ネーション・オブ・イスラム(Nation of Islam)の指導者、イライジャ・ムハンマド。FBIは、指導者としてのイライジャ・ムハンマド(Elijah Muhammed)の信用を失墜させるために、その非道徳性、破壊性、犯罪性を示す資料を収集した。
◆ハイランダー・フォークスクール関係ファイル
ハイランダー・フォークスクール(Highlander Folk School)は、地元リーダーの養成と固有の文化の保護と発展を目的として、1932年にマイルズ・ホートンによりテネシー州モンティーグルで創立された。当初、組合労働者の教育に従事したが、1940年代になると次第に黒人を受け入れるようになり、南部の農園労働者の教育に力点が置かれるようになった。これが保守層の疑念を招き、人種隔離を求める州法に違反しているとして、学校の設立認可が取り消されるにいたった。ハイランダー・フォークスクールの研修合宿には多くの黒人が参加したが、白人用のバスの席を譲ることを拒否し、バスボイコット運動のきっかけを作ったローザ・パークスもその一人だった。
◆KKKによるヴィオラ・リウッツォ殺害関係ファイル
南部で黒人有権者登録促進運動が盛り上がりを見せた1965年、投票権法の成立を求め、アラバマ州のセルマからモントゴメリーまでデモ行進が行われた。後にセルマ行進と呼ばれるデモ行進は全国の注目を集め、地元の人々だけでなく、全国から参加者が集まった。ミシガン州デトロイトから参加した人権活動家のヴィオラ・リウッツォ(Viola Liuzzo)もその一人。リウッツォはデモ終了後、白人至上主義団体のクー・クラックス・クランの銃撃を受け死亡した。公民権運動で殺害された初の白人女性となった。
◆マルコムX関係ファイル
ブラックパワー運動の伝説的指導者、マルコムXは20代の時、服役中にネーション・オブ・イスラムを通してイスラム教に出会い改宗した。出所後、ネーション・オブ・イスラムに参加し、天性の雄弁の資質とカリスマ性により頭角を現し、ネーション・オブ・イスラムの指導者イライジャ・ムハンマドのライバルと目されるようになる。その後、ネーション・オブ・イスラムと袂を分かち、自らの教団を設立したが、1965年、演説中にネーション・オブ・イスラムのメンバーにより暗殺された。
◆ミシシッピ・バーニング(MIBURN)関係ファイル
1964年、有権者登録促進運動等、黒人向け教育を推進するミシシッピ・サマー・プロジェクトに関わっていたマイケル・シュワーナー(白人)、アンドリュー・グッドマン(白人)、ジェームズ・アール・チェイニー(黒人)の3人の公民権活動家がクー・クラックス・クランのメンバーにより殺害された。
◆アメリカムーア人科学寺院関係ファイル
ノーブル・ドゥルー・アリ(本名ティモシー・アリ)は、黒人はムーア人の子孫で、ムーア人の遺産を再認識することが黒人の救済と解放に通じるとの教義を唱え、1913年にニュージャージー州ニューワークにムーア人科学寺院(Moorish Science Temple of America)を創設した。教団の宗教はイスラム教とブラック・ナショナリズムとキリスト教の信仰復興運動を総合した独自の宗教だった。FBIは、ムーア人科学寺院を資本主義に敵対的で、革命を扇動する機関として、1930年代以降40年間にわたり捜査を続け、シカゴの本部やボルティモアやフィラデルフィア等の活動拠点から資料を押収した。
◆レミュエル・ペン殺人事件関係ファイル
陸軍予備役将校レミュエル・ペン(Lemuel Penn)は、1964年7月11日、クー・クラックス・クランのメンバーにより殺害された。KKKの活動報告と写真、目撃者の証言、新聞記事の切抜きの他、レスター・マドックス、サーグッド・マーシャル、リンドン・ジョンソン大統領の書簡を収録する。
◆ムスリム・モスク・インク関係ファイル
ムスリム・モスク・インク(Muslim Mosque, Inc)はネーション・オブ・イスラムと袂を分かった後にマルコムXが創設したイスラム教団。政治色の強い教団で正統的なイスラム教との連携を深めた。
◆全国黒人向上協会関係ファイル
1909年に創設された全国黒人向上協会(NAACP)に関する文書。1923年から1957年までの期間をカバーする。協会と共産党の関わりを捜査する中で収集した資料を収録する。
◆全国黒人会議関係ファイル
全国黒人会議(National Negro Congress)は、ジム・クロウ制度と呼ばれる黒人差別制度、人種隔離、差別、リンチ、暴徒による暴力から黒人を守り、黒人の権利を擁護するために、1936年に創設、寝台車ポーター組合の指導者、A.フィリップ・ランドルフを会長に選出した。ボイコットや家賃不払い運動など、人種差別に対する直接的抗議行動を支援し、1930年代に大きな政治勢力を形成した。
◆アフリカ系アメリカ人統一機構関係ファイル
アフリカ系アメリカ人統一機構(Organization of Afro-American Unity)はネーション・オブ・イスラムと袂を分かった後にマルコムXが、独立後のアフリカ諸国が集まり結成したアフリカ統一機構の影響下に創設した団体。
◆ポール・ロブスン関係ファイル
舞台や映画で活躍した俳優で、歌手としても実績を残したポール・ロブスンは、共産党やソ連寄りのその姿勢が反共の時代にあって、芸歴に大きな影を落とした。1949年にニューヨーク州ピークスキルでコンサートが開かれた際は、ロブソンを支持する群衆と批判する群衆の間で暴動が発生した。1950年には国務省によりパスポートが無効とされた。その後、公民権運動が盛り上がりを見せると、名誉が回復された。FBIファイルは、ロブスンの共産党との関係、電話の盗聴記録、妻の情報等を収録する。
◆ジェシー・ジャクソン師関係ファイル
ジェシー・ジャクソン(Jesse Jackson)は、南部キリスト教指導者会議(SCLC)の時代、マーティン・ルーサー・キングに託され、黒人の雇用促進や黒人が経営する事業支援を目的とするブレッドバスケット運動(パン籠運動)を推進した。SCLCを離れると、人間性を救う人民連合(People United to Save Humanity, PUSH)を創設し、黒人の貧困層の支援活動を行なった。1984年に民主党大統領候補を選ぶ予備選に黒人として初めて出馬した。FBI文書は1967年から1984年までのジャクソンの活動を監視、調査した記録で、ジャクソンに対する脅迫、ジャクソンがFBI、CIA、シカゴ市を相手に起こした集団訴訟に関する文書も含まれる。
◆ロイ・ウィルキンズ関係ファイル
全国黒人向上協会(NAACP)の有力メンバーで長く事務局長を務めたロイ・ウィルキンズ(Roy Wilkins)。ブラックパワー運動に代表される急進的な運動には批判的で、NAACP内部に共産党の影響力が浸透するのを阻止することに努めた。黒人の地位改善は法制化を以ってすべし、というのが持論で、歴代大統領とも会談した。FBI文書にはポール・ロブソンやマーティン・ルーサー・キングら著名人とウィルキンスの関わりを示す情報が含まれている。ウィルキンスに批判的なブラックパンサー党関係の文書も多い。
◆学生非暴力調整委員会関係ファイル
ランチカウンターでの人種隔離に抵抗する黒人学生の団体として1960年に創設された学生非暴力調整委員会(SNCC)は、自由乗車運動や黒人有権者登録促進運動を牽引した。ミシシッピ州では、ミシシッピ・サマー・プロジェクトと呼ばれる黒人有権者登録促進運動等の啓蒙活動を展開し、黒人を主体にした独立政党、ミシシッピ自由民主党を創設し、黒人の声を国政に反映させることを試みた。ブラックパワー運動が誕生した1966年、ストークリー・カーマイケル(Stokely Carmichael)が会長に就任すると、SNCCは急進化し、戦闘的団体としての性格を帯びるようになった。
◆サーグッド・マーシャル関係ファイル
サーグッド・マーシャル(Thurgood Marshall)は全国黒人向上協会の弁護士を務め、ブラウン対教育委員会裁判等、多くの公民権関連の裁判に関わり、黒人として初めて最高裁判所の判事に任命された。
◆W・E・B・デュボイス関係ファイル
全国黒人向上協会の創設者の一人、W・E・B・デュボイス(1868-1963)は、共産党との関係を疑われ、FBIの捜査対象になった。1951年に俳優で活動家のポール・ロブスンと設立し、会長に就任した平和情報センター(Peace Information Center)は共産党の前衛団体と見なされ、デュボイスは逮捕、起訴された。
◆南部キリスト教指導者会議への共産党の影響力浸透に関するファイル
バスボイコット運動が広がりを見せる中で、南部黒人教会の関係者により南部キリスト教指導者会議(Southern Christian Leadership Conference, SCLC)が1957年にアトランタで設立された。SCLCは非暴力主義、南部の地域組織との連携、人種、宗教、民族的出自等によらず入会を拒まない開かれた組織を組織原則とした。
◆マーカス・ガーヴェイ関係ファイル
ジャマイカに生まれたマーカス・ガーヴェイは中南米やイギリスで黒人が置かれた窮状について見聞を広め、世界中の黒人の団結を求め、世界黒人改善協会(Universal Negro Improvement Association)を創設した。その後、アメリカ合衆国に渡り、黒人のための事業支援、新聞の発行等の精力的な活動を通して、黒人に自信とプライドを注ぎ込み、大量の黒人が北部の都市に向かって大移動をした時期に重なっていたこともあり、その運動は「ガーヴェイ運動」と呼ばれるほどに高揚した。しかし、黒人のアフリカ復帰運動、極端な黒人中心主義は他の黒人指導者からも批判を受けた。FBIはガーヴェイを詐欺罪で告発し、国外追放処分にした。
(マイクロ版タイトル:African American oriented FBI collections (Inidividual collections listed on marketing website))
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関連分野
- アメリカ史
- アフリカ系アメリカ人研究