China and the Modern World: Records of the Maritime Customs Service of China 1854–1949
中国近現代史シリーズ 第2集は、南京の第二歴史檔案館が所蔵する清末・民国期の中国海関文書を電子化します。
1850年代の中国では太平天国の乱や宗教結社や不法集団の活動により社会が不安定化、貿易の脱税や密輸が横行、清朝による関税徴税業務は破綻を来していました。この状況の中、貿易活動の停滞を恐れたイギリスは、独自に関税業務を実施することが急務であると考え、清朝の伝統的な徴税機関である海関において清朝官吏に代わり業務を代行、ここに外国人税務司制度が創設されます(1854年)。当初上海に設置された外国人税務司を他の条約港にも設置することが論議される中で、1859年、各条約港の海関を統括し、雇用外国人の人事を司る総税務司が創設され、外国人税務司制度は広州、汕頭など他の条約港に拡大します。こうして清朝の伝統的な関税徴収機関である海関は、組織的には中国の行政機関としての体裁を取りつつも、外国人が中心となって運営する機関として生まれ変わりました。
近代中国海関史研究の歴史は長く、古くは20世紀初頭に遡ります。近代化推進の側面を強調する立場から、欧米列強による帝国主義的支配のシンボリックな存在とみなす立場まで、海関は様々な歴史的評価が下されてきました。また、海関自体が17世紀に由来する清朝古来の行政組織であるため、その歴史の中での外国人税務司制度の位置づけをめぐっても、議論が交わされています。20世紀末には、南京の第二歴史檔案館に膨大な海関内部文書が収蔵されているのが発見され、海関史研究は新たな局面を迎えます。
本データベースは、ロバート・ヴィカーズとハンス・ヴァン・デ・ヴェンの監修の下、ファイル数55,000 以上に及ぶ第二歴史檔案館の文書群の中から重要な文書710ファイルを精選し電子化したものです。海関の内部文書を収録する本データベースは、これまで海関統計などの刊行物に集中する傾向にあった海関史研究の新時代を切り開くとともに、全文検索機能や検索の絞り込み機能を実装し、文書の隅々まで効率的に隈なく目配りをきかせることにより、海関文書の新しい学術的活用に道を開くことが期待されます。
《関連エッセイ》
「中国海関の紹介 1854年~1949年」リチャード・S・ホロウィッツ(日本語訳)
《収録コレクション》
- 総税務司通令 Inspector General's Circulars
通令は、海関の最高責任者である総税務司が各地の海関税務司に送付した公式文書で、海関内部では法的効力をもちました。内容は、海関の組織から、脱税や密輸の取締りや没収に関する月次報告の作成、書簡の記録簿作成、税務司による貿易従事の禁止、海関の船舶や建物が掲揚する旗のデザインに関するものまで、多様な事柄に関して詳細に規定されました。本データベースは、検索用に製作された索引巻を含め製本版を元に電子化されています。通令にしばしば同封された同封文書(中国語や日本語の文書を含む)も収録されています。1861年の第1号以来、1949年までに発せられた約7,500件の通令が収録されています。
- ロンドン事務所文書 London Office Files
ロンドンに置かれた海関の出先機関の文書です。海関のために求人活動、物資の調達活動から、イギリス外務省や対中国債権を有する金融機関や債権団と海関との折衝まで、重要な任務を負っていました。ロンドン事務所の所長は、地の利を生かして外交や金融機関との折衝に従事したことに加え、在外個人秘書として総税務司をサポートしました。文書・書簡の登録簿、ロンドン事務所レターブック、ロンドン事務所所長と総税務司の準公式書簡、ロンドン事務所長と総税務司機密書簡・私信、太平洋戦争期の覚書と電信、ロンドン事務所の歴史、所蔵文書、スタッフ、事務所運営等に関する資料に加え、写真を収めたファイルも収録されています。
- 4条約港からの准公式書簡 Semi-Official Correspondence from Selected Ports
漢口、哈爾浜(ハルビン)、上海、汕頭(スワトウ)の税務司から総税務司署に送られた準公式書簡です。収録されているのは20世紀の書簡のみです(19世紀の書簡は1900年の義和団の乱により破壊)。公式文書と比べ、出来事や関係者に関する個人的な見解を含む場合が多く、ファクト情報も論評も詳細におよぶことが多くみられます。税務司から総税務司への書簡では、他の税務司に対する批判や評価がなされていることもあり、総税務司にとっては税務司同士の人間関係を知る格好のツールであり、税務司と総税務司の人間関係作りの上でも重要な機能を担いました。条約港周辺の地方政治の状況を知る上でも第一級の史料です。
- 貿易取締関係文書 The Policing of Trade
中国海関による密輸の取り締まりへに関するファイルを収録します。19世紀後半の寧波、厦門、温州、武湖の税務司と清朝側の海関監督との通信、20世紀初めの上海、廈門、福州、広東の河川警察に関する記録、1930年代の関税率引き上げに伴う密輸急増に対応すべく創設された緝私署(Preventive Service)や総稽査処(Chief Inspection Bureau)の関連文書、厘金廃止と常関創設に関する文書、密輸取締の月次報告書、アヘン貿易取締に関する文書、総税務司と民国財政部関務署との機密書簡など、多彩な資料を収録しています。
- 日中戦争・国共内戦期関係文書 The Sino-Japanese War and its Aftermath, 1931-1949
日本による満州占領とその影響に関する通信や記録、日本占領期の上海における海関運営の諸問題、日本人職員の増員と日本の影響力増大、総税務司メイズと英米大使館・重慶国民政府との機密書簡、日米開戦にともなうメイズの解雇と岸本廣吉の総税務司就任、蔣介石政権による重慶海関の並立と日本軍非占領地帯における戦時消費税課税、日本降伏後の海関の再統合と国共内戦の勃発などに関連する資料を収録します。
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